はじめに――170棟以上が燃えた現実を、自分ごとに
2025年11月18日夕方、大分市佐賀関の住宅密集地で発生した火災は、住宅や空き家など170棟以上に延焼し、焼失面積は約4万8900㎡(約4.9ヘクタール)に及ぶ「大規模火災」となりました。
強風注意報が出るほどの風、木造住宅が密集した地形、車1台通るのがやっとという細い道路…。
この火災は「遠くのどこかの出来事」ではありません。
日本中の港町や古い住宅街、坂の多い地区や下町の一角――同じような条件を抱えた街は、全国にたくさんあります。
乾燥と強風のシーズンである今こそ、
- 家の中でどんな火の使い方をしているか
- 家のまわりに燃えやすい物を置いていないか
- ご近所と一緒にどんな備えができるか
を、一度立ち止まって見直す絶好のタイミングです。
この記事では、防災士の視点から
を、チェックリスト・表・イメージ図・コラム・外部リンクを交えながら、できるだけ分かりやすく解説します。
第1章 大分・佐賀関の大規模火災から見えた「燃え広がる条件」
1-1 何が起きたのか(概要)
報道を整理すると、今回の火災は次のような特徴がありました。
この「条件の重なり」が、1軒の火災を、街全体を巻き込む大規模火災に変えてしまったと専門家も指摘しています。
1-2 なぜここまで燃え広がったのか――4つの要因
報道や専門家の解説を踏まえると、延焼拡大の主な要因は次の4つです。
- 強風
- 火の粉が数十メートル〜数百メートル先まで飛び、屋根やベランダ、山林に着火
- 風下方向に一気に炎が走る
- 木造住宅の密集
- 家と家の間隔が狭く、外壁や軒がほぼくっつくような距離
- 一軒が燃えると、隣家の軒・ベランダ・窓にすぐ熱が伝わる
- 狭い道路・消防活動のしづらさ
- 車1台通るのがやっとの道が多く、消防車が奥まで入りにくい
- ホースを伸ばすにも時間がかかり、初期消火・延焼防止の難易度が上昇
- 高齢化と空き家の増加
- 現場周辺は高齢者が多い地域で、避難や初期対応が遅れやすい構造
- 空き家・空き店舗が多く、管理が行き届かず、可燃物が放置されがち、という指摘も。
これらは、地方の港町・下町・古い住宅街に共通する課題でもあります。
「うちの地域も似ているかも…」と思った方は、まさに“他人事ではない地域”です。
★コラム①:延焼は「時間」との戦い――木造密集地の怖さを数字でイメージする
木造住宅が建ち並ぶ地域で火災が起こると、10分〜20分という短い時間で、火は一気に広がることがあります。
イメージしやすいように、ざっくりとしたモデルで考えてみましょう。
例)風速10m前後の強風・乾燥・木造密集地
・出火建物から隣家の軒先までは1〜2m
・ベランダには洗濯物・プランター・木製の家具 etc…
- 3〜5分:
室内やベランダが激しく燃え、窓ガラスが割れ、火の粉や炎が外に噴き出す - 5〜10分:
隣家の軒・雨どい・ベランダの物干しなどに着火
「隣の家にも燃え移っている!」という状況に - 10〜20分:
2〜3軒続けて炎上し始め、「通り1本がまるごと火に包まれる」イメージに
実際、大分の火災では、発生から数時間のうちに170棟以上が焼ける規模に拡大しました。
ここで大切なのは、
「消防車が来てから何とかしてもらう」のでは遅い
「火事かも?」と思った最初の数分間に何をするかが勝負
ということです。
- 日頃から出火しにくい生活習慣をつくる
- 出火しても燃え広がりにくい家・まわり方にしておく
- いざというときすぐ逃げられる動線を確保しておく
この3つを、普段から少しずつ整えておくことが、
「大規模火災を、自分の街で起こさない」ための何よりの対策になります。
第2章 乾燥シーズンの「家庭でできる」火災予防10のポイント
ここからは、乾燥と強風が多い秋〜冬に、各家庭で確実に実践したい防火対策をまとめます。
総務省消防庁や東京消防庁が呼びかける「住宅防火 いのちを守る10のポイント」も参考にしています。
2-1 今すぐ見直したい!火の元まわり
🔍 チェックリスト(家庭の火の元)
□ 台所(こんろ・グリル)
- 調理中にこんろから離れない
- コンロのそばにキッチンペーパー・布巾・プラ容器を置かない
- グリル内の油・魚の脂をこまめに掃除する
- 安全装置付きこんろへの入れ替えを検討する
□ 暖房器具(ストーブ・ヒーター・こたつ)
- ストーブの前後1m以内に可燃物を置かない
- 洗濯物をストーブの上・近くで乾かさない
- 電気ストーブのコードを踏んだり、折り曲げたりしない
- 外出・就寝前は必ず電源OFF・元栓OFFを確認
□ 電気まわり
- コンセント周りのホコリを定期的に掃除
- 「たこ足配線」「古い延長コード」をそのまま使わない
- 使っていないプラグは抜いておく
- コードを家具の下で踏みつけない(被覆破損の原因)
□ たばこ・ライター
- 寝たばこは絶対しない・させない
- 灰皿には水を入れておく
- 吸い殻をまとめてゴミ箱に捨てない
- 子どもの手の届くところにライター・マッチを置かない
2-2 「NG行動」と「OK行動」を表で整理
| シーン | やりがちなNG行動 | 今日からできるOK行動 |
|---|---|---|
| 料理中 | スマホを触りながら、別室に行く | 調理が終わるまでこんろから離れない |
| ストーブ使用中 | 洗濯物を前に干す・上に乗せる | 洗濯物干しは別の部屋か、少なくとも1m以上離す |
| コンセント周り | たこ足配線でコードだらけ | 使用する家電を絞り、余分なプラグを抜く |
| たばこ | 吸い殻をそのままゴミ箱へ | 吸い殻は水を入れた金属缶に入れてから捨てる |
| 仏壇・ろうそく | つけっぱなしで外出・就寝 | 必ず人がいる時だけ点灯し、離れるときは消す |
| アルコール飲酒後 | たばこ・コンロの火の始末が適当になる | 酔ったら火を使わない・吸わないルールにする |
2-3 住宅用火災警報器と消火器は「命のパートナー」
消防庁の統計では、住宅火災の死者の多くは「逃げ遅れ」によるものとされています。その防止に決定的な役割を果たすのが、住宅用火災警報器です。
- 各居室・台所・階段に設置(地域条例を確認)
- 10年を目安に交換(古いものは要注意)
- 月に1回程度、テストボタンで作動確認
- 音のパターンを家族全員で共有(「この音が鳴ったらすぐ避難!」と決める)
また、初期消火には消火器が有効です。
★コラム②:失敗しがちな「消火器と住宅用火災警報器」の選び方・置き方
1)住宅用火災警報器
よくある“もったいない設置”がこちら。
- 台所だけ/寝室だけに1個だけ付いている
- 10年以上前に付けたまま、一度も交換していない
- 電池切れでまったく作動しないまま放置
消防庁は、「4つの習慣・6つの対策」からなる『住宅防火 いのちを守る10のポイント』の中で、住宅用火災警報器の定期点検と10年を目安とした交換を呼びかけています。参考:消防庁
ポイント
- 「寝室+その前の廊下+台所」は最低限おさえたい設置場所
- 器具の側面や説明書に「製造年」が書いてあるので確認
- 製造から10年以上経っていたら、迷わず交換する
2)消火器
「安かったから」「もらい物だから」で、よく分からない消火器を置いているご家庭も多いですが、
- 粉末式:一般的。粉で窒息消火。あと片づけがやや大変
- 強化液(中性):油火災や電気火災にも使え、片付けも比較的楽
- キッチン用消火具:コンロ火災に特化した小型タイプ
など、種類と用途を知った上で選ぶのが大切です。
置き場所の鉄則
- 「燃えている場所へ向かう途中」に置かない
- 必ず逃げ道(玄関・勝手口)側に置き、「ダメだと思ったらすぐ逃げられる位置」に
- 高齢者や子どもも使えるよう、使い方を一度は練習しておく(空の模擬訓練用でもOK)
「消火器と警報器は、飾りではなく“使ってなんぼ”の道具」――
これを合言葉に、ご家庭で一度チェックしてみてください。
第3章 密集した住宅地で延焼を防ぐ「ご近所防火術」
佐賀関のように、木造住宅が密集している地域では、
1軒の火事が「自分の家」だけでなく、「ご近所一帯の問題」になります。
だからこそ、“個人の防火”と同時に“ご近所単位の防火”が重要です。
3-1 家のまわりを「燃えにくくする」3つの工夫
① 外壁から1m以内に可燃物を置かない
- 段ボール・古い家具・木の板・プランターの土台など
- プロパンガスボンベの周りの物置・木製棚
→ 少なくとも「外壁から1m」はスッキリ空けることを意識しましょう。
② ベランダ・バルコニーは「延焼ステージ」にしない
風にあおられた火の粉は、ベランダ・バルコニーに着火しやすいと言われています。
- 濡れたまま干しっぱなしのダンボール
- プラスチック製の収納箱
- 不要になった布団・マットレス
これらはすべて「炎の足場」になります。
ベランダは「物置」ではなく、避難路&防火スペースだと意識を変える
ことが大切です。
③ 路地や隙間の「ごみ・枯れ草」をためない
- 家と家の間の細いすき間
- 路地の角にたまった枯れ草・落ち葉・ゴミ袋
ここに火の粉が入るだけで、あっという間に炎が走ります。
月に1回の「ご近所清掃デー」などを決めておくと、**延焼を防ぐ“見えない防火帯”**になります。
3-2 ご近所同士で決めておきたい「3つのルール」
ルール① 「火の用心」声かけ&見守り
- 夜の見回りで「火の用心」の声かけを復活させる
- 高齢者世帯へ、「ストーブ消えてますか?」の一声
- ゴミ出しや回覧板のついでに、玄関先の可燃物もさりげなくチェック
ルール② 「ここは消防車の通り道」にしよう
- 細い道路に常習的に駐車している車がないか
- 消防車・救急車が通れないボトルネックがどこか
- 消防署・自治体に相談し、できれば路面表示や看板を出してもらう
ルール③ 「消火器・屋外消火栓の場所」を共有
- 町内会で「防火マップ」を作成
- どの家に消火器があるか、どこに消火栓や防火水槽があるか
- 子どもも含めて、散歩しながら場所を確認しておく
★コラム③:高齢化・空き家と火災リスク――地域で支える「見守り防災」
佐賀関の火災でも、高齢化や空き家の増加が被害拡大の背景にあったと指摘されています。
高齢者や一人暮らし世帯では、
- ストーブの消し忘れ
- たばこの火の始末
- 電気ストーブに布団がかかる
- 避難の判断・行動が遅れる
といった要因が重なりやすくなります。
また、空き家は
- 雨戸が閉まったまま、内部の状況が分からない
- 庭先に枯れ草・木材・ゴミが溜まりやすい
- 不審者のたまり場になり、放火リスクが上がる
などの問題を抱えます。
地域でできることは、派手なことではありません。
- 「あの家、最近電気がついていないけど大丈夫かな?」と声をかける
- 空き家の所有者が分かる場合は、町内会から管理を依頼する
- 自治体の「空き家対策窓口」に相談し、防犯・防火の観点からも支援を求める
「見守り」は、高齢者の孤立を防ぐだけでなく、
地域全体の火災リスクを下げる“防災行動”でもあります。
第4章 それでも火災が起きてしまったら――命を守る行動フロー
どれだけ気を付けていても、火災はゼロにはなりません。
大切なのは、「もし燃えたとき、どう動くか」を家族で共有しておくことです。
4-1 自分の家で出火したときの基本行動
行動フロー(イメージ)
- 火災警報器・異変に気付く
- 焦げ臭い・煙が見える・警報音が鳴る
- 大声で知らせる
- 「火事だ!逃げて!」と短く大きく叫ぶ
- 近所にも聞こえるくらいの声で
- 119番通報
- 火元から安全な場所に移動してから通報
- 住所・目印・状況(「住宅街」「路地が狭い」など)を伝える
- 初期消火(※無理は絶対しない) 初期消火の目安は 「炎の高さが天井に届く前まで」「顔が熱くて近づけないなら撤退」
- 炎が小さい段階なら、消火器や濡れタオルで対応
- 少しでも「怖い」と感じたら、消火はやめて避難を優先
- 避難
- 低い姿勢で、煙を吸わないように口と鼻を覆う
- エレベーターは絶対に使わず、階段で
- ドアノブが熱い場合、無理に開けない(その向こうが火の海の可能性)
- 二度戻りはしない
- 貴重品やペットを取りに戻らない
- 救助は消防隊に任せることが、結果的に命を守る行動になります
4-2 近所で火災が起きたときのポイント
密集地では、「隣・向かいの家の火災が、自分の家の生死に直結」します。
□ 近隣火災時のチェックリスト
4-3 地域で共有したい「避難先」と「連絡方法」
佐賀関の火災では、佐賀関市民センターなどに多くの住民が避難しました。
ふだんから、
- ここが「地域の一時避難場所」
- ここが「広域避難所」
といった情報を、自治体のハザードマップ・防災マップで確認しておくことが重要です。
また、避難時に家族が離れ離れになることも考え、
- 集合場所(○○公園、○○小学校 など)
- 連絡手段(LINE・電話・災害用伝言板 など)
を、家族会議で一度話しておくだけでも、混乱をかなり減らせます。
まとめチェックリスト:
「うちの家・うちの地域は大丈夫?」を10分で自己点検
□ 家の中
- □ 調理中、こんろから離れないルールがある
- □ 寝たばこをする人はいない
- □ ストーブ周り1m以内に物を置いていない
- □ コンセント周りのホコリ・たこ足配線をチェックした
- □ 住宅用火災警報器が設置されていて、10年以内のものだ
□ 家の外
- □ 外壁から1m以内に段ボールや木材など可燃物を置いていない
- □ ベランダに不要な物置き・ゴミを溜めていない
- □ 家と家の隙間に枯れ草・ゴミが溜まっていない
- □ ガスボンベの周りがスッキリ整理されている
□ ご近所・地域
- □ 道路に常習的な迷惑駐車がなく、消防車が通れる
- □ 町内の消火栓・防火水槽・消火器の場所をなんとなく把握している
- □ 高齢者世帯や一人暮らし世帯を「見守る空気」がある
- □ 避難場所(学校・公民館など)を家族全員が知っている
1つでも「怪しいな」と思ったところがあれば、
それが“今すぐ取りかかるべき防火アクション”です。
おわりに――「乾燥した風景」を、「燃えにくい街並み」に変えていく
大分・佐賀関の大規模火災は、住宅密集地での火災がどれほどの被害をもたらすかを、
日本中に突きつけた出来事でした。
- 強風と乾燥
- 木造の密集
- 高齢化・空き家の増加
- 狭い道路と消防活動の難しさ
これらは、多くの地域に共通する課題です。
しかし同時に、私たちには
- 生活習慣を少し変える
- 家のまわりを少し片付ける
- ご近所と少し多く声をかけ合う
といった「小さな一歩」から、
街を「燃えやすい街」から「燃えにくい街」へ変えていく力もあります。
ニュースを見て胸が痛くなった今だからこそ、
この記事をきっかけに、ぜひ
- 家族で火の始末を話し合う
- 週末に家のまわりの可燃物を片づける
- 町内会や学校で、防火の話題を出してみる
といったアクションを、ひとつだけでも始めてみてください。
「あのときの記事を読んで、うちは火事を出さずに済んだ」
そんな未来の一言が生まれるように――
防災士として、そして同じ日本に暮らす一人として、
心から願っています。
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