はじめに:クマが「日常のリスク」になってきた時代
ここ数年、「またクマ出没」「住宅街でクマ」「通学路にクマ」というニュースが、本当に増えました。
そしてネットやSNSでは、こんな声も飛び交います。
「山の太陽光パネル(メガソーラー)が森を壊したからだ」
「その太陽光の会社の大元は中国企業らしい」
果たしてこれは本当なのか?
そして、私たちはこれからどう備えればいいのか?
この記事では、
- クマ大量出没の“本筋の原因”
- メガソーラーとクマ出没の関係(噂の整理)
- 「中国資本」云々の話をどう理解すればいいのか
- クマに遭遇しないための防災対策・遭遇した時の行動
- 来年以降、長期的に私たちが考えるべきクマ対策
を、防災という視点から分かりやすく整理していきます。
第1章:クマ大量出没の「本当の主な原因」とは?

まずは、環境省や研究者がどう見ているのかを整理します。
結論から言うと、クマ出没が増えている背景として、次の4つが“本筋の原因”とされています。
① クマの個体数と分布域の拡大
- 「昔はそんなに見なかったのに、最近よく聞く」
これは単なる印象ではなく、実際にクマの個体数が増えている地域があると報告されています。 - 保護政策や狩猟者の減少などにより、結果的にクマの数・分布が広がってきた地域も。
② 中山間地域の過疎化・里山放棄
- 高齢化・人口減少で、**田畑や山林の管理がされなくなる「里山放棄」**が進行。
- これまでは、人が畑仕事や林業で出入りしていた“人の気配のある場所”が、
人の手から離れ、クマが活動しやすい静かな空間になってしまった。
「過疎化・高齢化・耕作放棄が、クマと人の“境界”を崩している」
という趣旨の説明が、環境省や研究者の資料で繰り返し出てきます。
③ 餌(ドングリなど堅果類)の不作や森林構造の変化
- クマの秋の主食であるドングリやクルミなどが、凶作の年があります。
- そうすると、クマは山の中だけでは太れず、人里の柿の木・栗・畑・家庭菜園・生ごみなどに近づいてしまう。
- 森林の伐採・植生の変化も加わり、「クマが十分に食べられる森」が減っているという指摘も。
④ 気候変動による行動パターンの変化
- 暖冬・猛暑・降雪パターンの変化などで、
冬眠に入る時期が遅れたり、冬眠が浅くなったりする可能性が指摘されています。 - 活動期間が長くなると、そのぶん餌が必要になり、結果として人里に出る機会が増える。
まとめると
公式な整理では、
「里山・中山間地域の変化や人間側の“引き下がり”がベースにあって、
その上に、餌の不作や気候の揺らぎが乗っている」
というイメージです。
つまり、「クマが変わった」というよりも、
「人の暮らし方・山との付き合い方が変わり、そのスキマをクマが埋めている」とも言えます。
第2章:「山の太陽光パネル(メガソーラー)」はどんな位置づけか?
ここで、よく話題になるのが「メガソーラー」の問題です。
2-1. 「原因の一つになりうる」という議論は、たしかにある
一部の専門家やコラムでは、次のような指摘があります。
イメージとしては、
- 山の斜面を伐採してパネルを敷き詰める
- そこが「森」でも「人里」でもない“ワンクッション”の役目を失う
- クマから見て「安全に移動できるルート」が変わる
- 結果として人里に近いルートを通らざるを得ない場合が出てくる
──というロジックです。
“あり得る話”であり、局所的には影響がある可能性は否定できません。
2-2. しかし「メガソーラー=クマ出没の主犯」という科学的根拠はない
ただし、NHK特集や研究者のファクトチェック的な検証では、
「太陽光発電の建設で森が減り、クマが追い込まれた」
という主張について、
「十分な根拠はない」
と結論づけているものもあります。
ポイントはこんな感じです。
- メガソーラーの多くは、
もともと耕作放棄地・ゴルフ場跡地・人里近くの既存開発地につくられているケースが多い - クマの主な生息地となるような、
「奥山の深い森」を直接大規模に削っている例は、それほど多くない - 林野庁のデータを見ても、
太陽光発電による森林減少は、全体の森林面積から見ればごく一部で、
それだけでクマの出没パターンの全国的な変化を説明できるほどの規模ではない - クマ出没増加の統計データと、メガソーラー建設の場所・時期を重ねても、
せいぜい「一部で相関があるかもしれない」レベルで、
因果関係とまでは言えない
SNS上では、
「メガソーラーがクマ問題の元凶だ!」
という強い言い方も見かけますが、
現時点では“主犯扱い”するだけの科学的な裏付けはありません。
2-3. 結論:メガソーラーは「人間の土地利用変化の一要素」にすぎない
ここまでをまとめると……
- 局所的には
「山の斜面を丸裸にするようなメガソーラー開発」が、
生息地や緩衝帯を削り、クマの動き方に影響する可能性はある。 - しかし、全国レベルで見たときのクマ大量出没の“主因”は、
あくまで- クマの個体数・分布の変化
- 里山・中山間地域の衰退(過疎化・高齢化・耕作放棄)
- 餌不足や気候変動
メガソーラーは「人間側の土地利用変化」の一要素にとどまる
というのが、今出ているデータと専門家の見方に近いところです。
第3章:「山の太陽光の大元は中国企業」という噂は本当?

ここも、感情的になりやすい部分なので、整理しておきます。
3-1. 事実としてあるのは、「中国製パネル+一部中国資本の参入」
3-2. ただし「山のメガソーラー=全部中国資本」は言い過ぎ
実際のメガソーラー事業は、いくつものレイヤーに分かれています。
「中国製パネルを使っている」
「どこかの出資者に中国マネーが入っている可能性がある」
という話と、
「その会社の大元は全部中国企業だ」
をイコールにしてしまうのは、かなり飛躍があります。
- 実際には、
- 日本企業主体の案件も多数
- 韓国・欧州系資本の案件もある
- パネルも中国製だけでなく、日本製・欧州製も混在
しており、
「山の太陽光の大元はみんな中国企業」
というほど単純な構図ではありません。
3-3. どう理解しておくのがフェアか?
- エネルギー安全保障・土地売買・外資規制という観点から、
「中国資本のメガソーラー」を問題視する議論があるのは事実です。 - しかし、それと
「クマが町に出てくるのは、中国資本のメガソーラーのせいだ」
という話は、別次元の問題です。
後者については、現時点で科学的な裏付けはほとんどありません。
第4章:防災の視点で見る「クマ×太陽光問題」──どこに対策を打つべきか?

噂を追いかけるよりも大事なのは、
人命と生活を守るために、今どこに対策を打つのか
です。防災の観点から、次の3つのレイヤーで考えてみます。
4-1. 森林・里山側でできる対策
4-2. 町側・生活圏での対策
こちらは、読者(私たち)がすぐに取り組める「防災行動」です。
4-3. エネルギー政策の中での対策
第5章:いざというときの「クマ対処方法」──個人が取るべき具体行動

ここからは、防災行動そのものの話です。
「クマに遭わないための工夫」と「もし遭ってしまったら」の両方を押さえておきましょう。
5-1. クマに遭わないための予防策
① 情報をチェックする習慣をつける
② 音で自分の存在を知らせる(山・里山を歩くとき)
③ 匂い・餌になるものを持ち歩かない・置かない
④ クマの活動時間帯を避ける
5-2. もしクマに遭遇してしまったら(基本行動)
※状況やクマの種類によって細かい対応は異なりますが、ここでは「一般的に言われている基本」を整理します。
NG行動(やってはいけないこと)
基本的な対応
どうしても距離が近く、クマがこちらに向かってきた場合
※ここは本当に命に関わる部分なので、
地域の防災講座・専門家の動画・自治体が出しているマニュアルに 目を通しておくことを強くおすすめします。
第6章:来年以降の「クマ対応」をどう考えるか──長期戦の防災
クマ問題は、今年だけの“流行り”ではありません。
人口減少・気候変動・里山の変化は、これから数十年レベルで続く長いテーマです。
だからこそ、来年・再来年、そしてその先を見据えた「長期戦の防災」を考えておきたいところです。
6-1. 「クマと共に生きる」前提での地域づくり
- 「クマはもういない」「自分の地域には来ない」と考えるのではなく、
「クマは近くにいるかもしれない」を前提にした地域設計が必要です。 - 例:
- 通学路・通勤路で、藪が深く見通しの悪い場所を減らす
- 公園・農地・川沿いを含めた「クマが近づきやすいルート」を見直す
- 地域の防災計画に「クマ対策」の章を組み込む
6-2. 情報インフラとしての「クマ版ハザードマップ」
- 洪水・津波・土砂災害と同じように、
「クマが出やすいエリア」や「出没履歴」を可視化する地図づくり。 - 自治体が公開するだけでなく、
住民自身が情報を持ち寄り、更新していく仕組みが理想的です。
6-3. エネルギー政策と防災を一緒に考える
- 再生可能エネルギー(太陽光・風力)は、地球温暖化対策にとって重要な柱です。
同時に、「どこに」「どの規模で」設置するかによって、
景観・生態系・クマを含む野生動物への影響が変わります。 - 来年以降は、
- 「誰の資本か」よりも
- 「どれくらい環境に配慮した計画か」
- 「地域住民と対話しながら進められているか」
おわりに:噂の前に、「構造」と「自分たちにできること」を見る
最後に、この記事のポイントをもう一度まとめます。
そして、防災の観点から私たちにできることは、
です。
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